中世の気候と14世紀の食糧問題について関心を持ってしまい、ちょっとまとめてみた。
人口が増えすぎた「中世の温暖期」(10~14世紀)

中世の温暖期は、作物を育ちやすくして農業の発展を促した。
さらに、農業技術が進歩して「三圃制」(さんぽせい)や「重量有輪犂」(じゅうりょうゆうりんすき)が生み出される。これによって必要以上に作物が生産できるようになった。
余って売れる物ができたんだね。
生活の余裕が人口の増加を促して、どんどんと農地も広がっていったんだ。
ここまではいい感じ。
ところが、2世紀以上にわたる農業の拡大は壁にぶち当たった。
農地不足である。
パンパンになったのだ(笑)
さらに、残っている農地を相続人たちでどんどん分割していった。小さな農地ではそこから十分な収穫する余地がせばまっていったんだ。
ベルギーやオランダに関しての例をあげると、
多くの周密な村落では農業経営の50-75パーセントは3-5ヘクタールの大きさしかなく、これは農民家族が生き残る最小限度だった。⑴
※1ヘクタールは正方形で考えて1辺が100メートルなので、それが3から5ブロックあると考えてみた。
十分に収穫できないから、不足分を市場で調達しようとしたのだ。だけれども、市場で売っているものだって限られているから、食物を要求するほうが多くなって、じょじょに値段が上がっていったんだ。
買うのもしんどい状況になってきたわけだね。
この状況は寒冷化とかペスト以前の話なんだ。この時点ですでに食糧環境はヤバかったといえる。
カツカツの状態だったんだね。
このヤバイ状態の中で大変恐ろしいけど、小氷河期が到来してしまう。
「小氷河期」の到来で平均気温が1℃低下
小氷河期の長さは諸説あるけど、だいたい14世紀~19世紀の間として見てみた。
小氷河期という言葉のニュアンスはパっと見で、すんごい寒い感じがすると思う。
なにしろ「氷」だから(笑)
だから氷点下まで下がるのか!?とか思う。
だけど、わずか1℃なんだ。
「なーんだ。たった1℃かよ、それぐらい平気でしょう(笑)」と思うかもしれない。僕はそう思いました(笑)
しかし、このたった1℃は思っている以上に恐ろしいことが分かった。
作物学の基礎知識によれば、
(西ヨーロッパの緯度帯では)、年平均気温が1℃下がると、植物の生育可能期間は3-4週間、 短くなり、また、作物の生育可能高度は500フィート(ca.170m)、低くなるという。⑵
なだらかな丘陵地帯では、耕作地の高度方向の長さ を1kmから2km減少させることになる。⑶
これはかなりの打撃だ(怖)
ただでさえ、限られた農地でカツカツの生活をしているのに、1kmから2km農地が縮小しちゃったらどうなるのか?
3-5ヘクタールの農地ではいっきに吹き飛んでしまうということだよね。

これでは食糧不足になるのは当たり前だ(汗)
増えすぎた人口を補うだけの収穫がなくなったんだ。
市場の食品も天文学的な高さに上昇して、、
作ることも、買うこともできない。
だから、大規模な飢饉になってしまった。
ヨーロッパでは異常に長い飢饉が1315-1317年に起こる。
普通の方法で食糧調達ができないなら、手当たり次第、動植物に手を出すしかなくなった。
それで伝染病に感染した動物にまで手を出してしまったんだ。
これによって伝染病は広がり、病気とか衰弱、栄養不足で死ぬ農民はどんどん増えていったんだ。
当然、村全体が死亡する例もあったという。
とても悲惨な状況だ。生きている人もとてつもない苦難であったろう。
1347年に黒死病が到来する以前、食糧難に端を発する大変な伝染病がすでに起こっていたんだ。
まとめ・感想
14世紀、中世の温暖期が終了して、地球規模で小氷河期に突入した。この影響で年平均気温が1℃下がってしまう。結果、農作物が育たなくなって、農民たちは食糧不足に陥ってしまった。
ヨーロッパが食糧不足、ひいては物不足の状況は海外から多くの資源を得ようとした背景。
これは、、、
大航海時代の背景だぁぁぁ!(笑)
今回、ヴェルナー・レーゼナーの『農民のヨーロッパ』という、農村社会がメインになっている本を見つけて、ググりと塀用で記事を書いてみました。
永田諒一さんの論文記事における作物学の基礎知識、これは凄いです(笑)!(引用⑵はこちらの孫引き)
こういう原則的なことが分かると、他の読み物でも当てはめて考えられて面白くなります。
現に、小氷河期に入ると一部農民は丘陵地帯から渓谷地帯に移動したという記事を発見して、繋がってくるなぁ~と一人で関心する(笑)
ところで、農民中心の話だったけれども、
では、国王とか貴族はどうなんだろうかと。
物理的にみて、いくらお金を持ってても、農作物が取れなくなったらやっぱり、貴族とかも困るはず。
びくともしないほどお金があったとしても、自前の領地で収穫できない、収穫したものが価格高騰で売れないってなったら、やっぱり収入も減って困るよね。
「旨いものを食おう」「儲けてやろう」という気が強かったにせよ、ヨーロッパ地域全体の食糧不足はやっぱり海外に資源を求める動機になるだろうなと思った。
森村宗冬さんの『大航海時代』(新紀元社)で、ヨーロッパを表現するずばりな言葉を見つけた。
「餓えた痩せ狼 」
まさにこれです!(笑)
大航海時代、鬼のような勢いで海外資源をむさぼっていく背景が、飢饉や疫病、戦争の14世紀にあったことは否めないです。
以上でした!
参考にいただければ幸いです!
引っかかるところがあったら、コメント欄に異論、反論、訂正どうぞよろしくお願い致します。
〈引用と参考文献〉
⑴ヴェルナー・レーゼナー『農民のヨーロッパ』( 藤田幸一郎(訳)(1995)平凡社 、P99、P100)
⑵ D. Pimental et. al., Energy and Land Constraints in Food Protein Production, Science 190, p. 760, 1975
⑶ 永田 諒一 「 ヨーロッパ近世「小氷期」と共生危機 」、 『文化共生学研究』第6号(2008.3) 、P34
森村宗冬『大航海時代』(2013)新紀元社
コメント
面白い。良い記事ですね。民族大移動、食料難、戦争、疫病に、惑星規模の環境変化が関与していた・・・ある分野の大きな変動が、全く違う分野の変化から起こってた、ミクロな視点ではわかり辛いものが、多角的な側面から統合して俯瞰して見ると違うことが見えてくる。
日本では、夏場の酷暑が取り沙汰されてますが、今は人為的にこういう異常を起こせるため、物事の真相がわかり辛くなるのもまた問題です。ある学者は、過去のより長いスパンの地質調査などから、現在の世界は氷期の間の間氷期の安定した時期にあって、これが氷期に移行すると寒暖の差が激しくなることを指摘してる記事を見たことがあります。都市部に住んでると夏の酷暑ばかりに印象を受けがちですが、惑星規模のエネルギー循環、全体での長期の平均値は、そういう都市部の住人の印象とは異なります。
近いうち、あるいはいずれ氷期が来るなら、予測と備えが必要かもしれないですね。あらゆる分野、地域あるいはグローバルな変化に対処できるだけの布石が必要です。
お褒めの言葉を頂き嬉しいです。また、現在の環境についてや、今後変化についてどう構えておくべきかというような見方もいただき、大変興味深く読ませていただきました。
これから氷期に入ることになったらどうするか。寒さだけでなく、他にもいろんな脅威が派生的に起こるのだろうなと確かに感じます。
現在の環境問題については、驚くほど見聞を広げておらずで、お話にのれない悲しさが(笑)
でも非常に興味深い分野なので、地道に新聞やニュースで切り口を見つけて、見分を広げたいと感じております(^-^)